「かわせファームとパーマカルチャーの出会い〜かわせファーム誕生の秘話Vol.1〜」では、かわせファームのけんちゃんとまさこちゃんの生い立ちから、フォレストガーデンとの出会いまで紹介してきました。
Vol.1につづき「かわせファーム誕生の秘話Vol.2」では、けんちゃんとまさこちゃんが農家をやろう!と決心したストーリーや、パーマカルチャー概念を取り入れた農業って一体どんなものか?について、さらに詳しく掘り下げてお届けします。
農家になろう!と決心
けんちゃんは、12〜13年ほどサラリーマンで、工場の生産技術や品質管理、社内のITなどを担当していました。しかし、当時けんちゃんは会社で働きながらずっとモヤモヤしていたといいます。
けんちゃんは、自分の時間をつぶして働きつづけていましたが、何のために働いているのか疑問を持ちつづけていました。「もっと自分のために働きたい」そう思いながらも、特にやりたいことが分からなかったのです。
そんなときに、仕事を辞める背中を押してくれたのが、妻であるまさこちゃんの力強い一言でした!
‘嫌なら辞めればいい!自分がいきいきできる生きかたをしなよ!’
父親から引き継いだ土地の活用
ちょうどその頃けんちゃんは、我慢しながら雇われつづける働き方ではなく、自分で自由にできる自立した働き方をしたい!と思っていたころ。まさか農業をやるとは思ってもいませんでしたが、まるで導かれるかのように、最終的には農業に行き着いたのです。
まさこちゃんの言葉が印象的でした。
‘おつげだったような気がします。農業だったら楽しく暮らしていけるというイメージがあり、自然に囲まれた暮らしをしていたら大丈夫だ!という確信がありました!’
農家のご両親のもとで育った、けんちゃんとまさこちゃんならではの選択と決断だったのでしょう。そして、もしかしたら、けんちゃんのお父さまからの後押しやメッセージだったのかもしれませんね。
パーマカルチャー概念を取り入れた農業への挑戦
けんちゃんは会社員を辞めて新たに農家になる!と決心して挑戦していくうえで、他と同じ慣行農法はしたくない!それであれば勤めていたころと変わらない!と強く思っていました。農業の世界に希望を与える新しいやり方はないか、と模索していました。
けんちゃんは一見、とても物静かな方に見えるのですが、実は、矛盾した世の中への疑問や、農業に対しての新たなチャレンジなど、胸の奥に熱い想いを秘めているのです。
農家になる決心をした当初は、ハーブ農家になることも考えましたが、ハーブでは経営的に成り立たないということや、「既存の農業のやり方や土地利用の仕方は、人にも自然にも負担をかけるやり方で限界がある」と感じていました。2人は、エディブルガーデンを施工してくれたPermaculture Design Lab.の淳さんに相談することにしました。
なぜ、淳さんに相談しようと思ったのですか?という質問に、けんちゃんとまさこちゃんは笑ってこう答えてくれました。
‘ガーデンをやってもらっていて、この人は普通と違う!植物おたくの淳さんなら何かおもしろいアイデアを提案してくれると思ったんです!’
けんちゃんとまさこちゃんが農家にチャレンジする、と聞いたとき、淳さんは「いよいよ動き出したね!おめでとう!」という気持ちと、「大丈夫かな?」という心配の気持ちと両方あったといいます。
‘もともと、フォレストガーデンをやりながら、フォレストガーデンを農業でやるとしたら「アグロフォレストリー」をやりたい!って思っていたんですよね。人も自然も酷使しない、パーマカルチャーのデザインを取り入れた農業が2人にも合っている!とても可能性があると思いました!’
現在、かわせファームでは、淳さんと二人三脚で森をつくるように時間をかけてゆっくりと多層的な農園をつくっていくことを計画しています。
※アグロフォレストリーとは、農業(Agriculture)と林業(Forestry)を組み合わせた造語です。森をつくるように果樹などを林業的な樹木として見立て、その果樹の隙間の土地で農作物を栽培したり、家畜を飼ったりします。主に熱帯地方で盛んで「森林農業」とも呼ばれます。自然の森のように作物を栽培することで、畑に生物多様性を取り戻し、従来の単一栽培ではできなかった持続的で循環的な生産が可能となります。農業をしながら森を再生する、まさに“森をつくる農業”です。
フォレストガーデンを応用したパーマカルチャー的農業とは
実際に、淳さんからアドバイスをもらいながら、かわせファームでチャレンジしている「フォレストガーデンを応用したパーマカルチャー概念を取り入れた農業」を順番にみていきましょう。
①大地の再生
…元々、土壌が粘土質で水はけ悪かったため、土地に水の通り道や、通気性の良い環境づくりのために、土に炭や粗朶(枝を束ねた水みち保護のための資材)を入れ込みながら、植物が育つ基盤となる『大地の再生』から農園づくりをはじめました。
②パッチワークのような土地の利用
…広大な土地を活用し、自然をつくっていくような農業をチャレンジしています。具体的には、従来のように1枚の畑で1種類の野菜だけを栽培するやり方ではなく、例えるなら「パッチワークのように」土地を活用していきます。
例えば、ぶどうの下でハーブを育てるなど、1枚の畑でもいくつかのレイヤーに分けて作物を育てられます。果樹の下の余白を活用し、ハーブや野菜を栽培できることはとても大きな可能性・発展性を感じますね!
③混植する(コンパニオンプランツ)
…一般的な畑、特に大規模農業の畑は、じゃがいも畑、大根畑…といったように1つの畑に1種類の作物を栽培しています。しかし、この一つの種類を大量につくる単一栽培をしていると自然のサイクルを崩し病害虫が発生しやすくなり、さらに病害虫が伝染して蔓延しやすいといいます。
かわせファームでは、単一栽培ではなく、混植(コンパニオンプランツ)していくことで、病害虫をおさえる工夫をしています。具体的には、果樹の周りにハーブを植えたり、病気が発生した際に蔓延を防ぐため同じ種類の果樹が隣り合わないように、例えば梨→レモン→梨→レモンと交互に植えています。
このように、混植していくことで、実は人にも自然にも無理がないアプローチになります。
④人が酷使されないデザイン
…実は、混植することで、病害虫の蔓延を防ぐだけでなく、作物の収穫シーズンがずれるため収穫の一極集中を分散でき、人への負担も軽減できるのです。よくある、みかん農家、りんご農家…といったように専業農家の場合は、収穫時期も一極集中してしまいます。
しかし、例えばかわせファームで実践しているように、ぶどうだけでなく、なし、レモン、キウイ、アボカド…といったようにさまざまな種類を植えることで、それぞれの収穫時期が季節ごとに順番に訪れます。そうすることで、通年を通じて負荷を切り替えていけるため、人と植物側とそれぞれに配慮した、それぞれのニーズがマッチしたデザインが可能になります。
⑤防風林に食べられる果樹を植える
…冬の浜松は、「遠州のからっ風」と呼ばれる強い季節風が吹きます。そのため、通常はまっすぐ伸び、風に強いマキの木が防風林として植えられることが多いのですが、かわせファームでは、防風林として食べられる熱帯果樹を植えています。
例えば、グゥバやフェイジョアなどを植えているので、将来的には風を防ぎながら収穫もできるようになります!まだ今は小さいですが、将来的には葉をお茶にしたり、実を収穫したり、加工してジャムにもできるということで、とても楽しみですね!
けんちゃんとまさこちゃんは、自分たちの暮らしのなかで、日々、多様性のある植物たちと向き合いながら「楽しい!おもしろい!植物とマッチする瞬間を感じる!」と、まさに自然の摂理を実体験することができているそうです!
肥料不使用、極力農薬を使わない栽培
もっともこだわっているのは有機、化学ともに肥料を一切使用しないこと。農薬についても不使用を基本としており、どうしても使用する場合は作物の状態に合わせて必要最低限になるようにしています。肥料を使用しないことで、窒素分が過剰になりにくく病害虫の発生自体が少ないため、結果として農薬の使用も抑えられます。
肥料を使用せず農薬を極力使用しないために、『道法スタイル(DOHO STYLE)』を取り入れて作物の成長ホルモンを活性化させる剪定や、仕立てを工夫して作物自体を力強く元気に育てています。また、病害虫予防のため作物の配置を工夫したり、周囲にハーブを植えています。
実際に、けんちゃんとまさこちゃんは、この栽培方法を実践しながら「肥料はいらない」と実感しているといいます。さまざまな実験をするなかで、肥料を与えるか与えないかであきらかに育ち方が変わるそうです。例えば、果物や野菜でも肥料を与えたものは腐り、肥料を与えていないものは腐らず自然と枯れていくそうです。
農薬については、基本的には使用しておらず「ゼロにできる」とは実感しているものの、現在はどうしても病気が発生して、これ以上は病気が広がり全滅してしまいそうな場合にのみ、慎重に回数を減らして必要最低限を使用するというスタイルをとっています。
かわせファームの大切な想いとして、こだわりすぎて全滅してまうと、この新たな農業へのチャレンジ自体を継続することができなくなってしまう。「肥料不使用・農薬不使用で果樹栽培をする」という目標に向けて、持続可能にチャレンジしていくためにも、そのプロセスとして、病気が発生し蔓延してしまいそうな場合にのみ最低限の農薬を使うという選択をしています。
また、病害中の予防として、従来の農薬だけでなく木酢液や微生物を活用し、農薬も自然のものを活用し、人も自然も豊かになっていくやり方を日々チャレンジしています!ぜひ、かわせファームのチャレンジを一緒に見守って応援していただけましたら幸いです!!
ぶどう栽培への挑戦
けんちゃんとまさこちゃんが、ぶどうやなしをはじめとする果樹をメインで栽培することにした大きな理由は、果樹はハーブや野菜に比べて敷地面積の単価が高いという点です。ハーブや野菜に比べて果実が収穫できるようになるまで時間は要しますが、採れはじめると安定的に収穫できるメリットもあります。
また、けんちゃんが会社員の頃、同期の仲間に「果物だったら何が食べたい?」と質問したところ、「ぶどうとなし!」と答えてくれた、という理由もあるそうです。たしかに、ぶどうとなしって最高に美味しいですよね!
でも、実は浜松ではぶどう農家ってとてもめずらしいんです。浜松市北区のほうではピオーネなど生産されているそうですが、かわせファームの周りでは誰もいないそうです。
ぶどう栽培は、雨が多く湿度が高い気候だと病気が出やすいため、日本の気候はあまり向いていないのだそうです。日本国内のワイナリーやぶどう産地で思い浮かべるのが山梨県や長野県なのも納得がいきます。
浜松の夏はとても高温多湿です。この気候条件で、まだ誰もやっていない、ぶどうの肥料不使用・農薬を極力使用しない栽培に挑戦しているかわせファームさんはまさにパイオニア!挑戦者!ですね。
また、ぶどうは果実を収穫するだけでなく、ぶどうの葉っぱや蔓(つる)も活用できるそうです。たとえば、ぶどうの葉っぱや芽かきした新芽はハーブティーに。ぶどうの蔓は、乾燥させてかご編みに活用したり、1つの作物のなかでもさまざまな活かし方があります。
ちなみに、ぶどうの葉っぱや新芽のハーブティーは、赤ワイン以上のポリフェノールが含まれており、さらにノンカフェインで葉酸を含んでいるので妊娠中におすすめです。味わいも、まろやかな甘みと酸味、そしてほんのり鼻から抜けるぶどうの香りが絶妙に美味しい!とのことなので、パーマカルチャー商店でもぜひ来年は新商品にチャレンジしてみたいと思います。
余談ですが、実はトルコやギリシャでは「サルマ」というぶどうの葉でお米や穀物とひき肉を巻いて煮込む伝統的な料理もあるそうです!日本でいうロールキャベツみたいな感じですね!
けんちゃん ‘ぶどう農家になると、どうしても収益につながる果実ばかりに目がいき、青果しかみえなくなってしまいますが、つる、葉っぱも活用できるんじゃない?という多様な見方をしていきたいんです!’
収穫ひとつをとっても単一的に見るのではなく、多様な資源をすべりこませていく。総合的な視野をもち、可能性や発展性を意識する、ということが、まさにパーマカルチャー的な視点ですね!!
ちなみに、かわせファームのぶどうを栽培しているハウスでは、病害虫が広がらない混植の実践として、ぶどうの間にキウイを植えているそうですよ。
現在、かわせファームでは、ぶどう「キャンベルアーリー」の収穫がある程度安定してきています。そして今後は、さらにレモン、なし、キウイ、アボカドなどが徐々に収穫できるようになってくる予定です。
果樹が安定すれば、将来的にはハーブや野菜にもチャレンジされていくとのことですので、今後のかわせファームから目が離せませんね!
限定!予約販売中のぶどうについて
現在、パーマカルチャー商店ではかわせファームのぶどう「キャンベル・アーリー」を数量限定で予約販売しております。
キャンベルアーリーの果皮は紫黒色です。一粒5gほどのやや小粒サイズで、甘みと酸味が絶妙に調和した深みのある味わいでです。色も味も濃く、とても香りが豊かなのでワインやジュースにも利用されている品種です。
(取材/川村若菜、能見奈津子、文/能見奈津子)